Lyricon Maintenance

Lyriconのメンテナンスとリペア

はじめに

Lyricon は電気製品としてはシンプルな構造ではありますが、時間の経過とともに調整の必要となる個所がいくつかあります。残存している個体は製造後30年以上経過しており、調整が必要となっている場合が圧倒的に多くなっています。ここでは、決して簡単ではありませんが、リリコンを使える状態に維持するためのテクニックをご紹介します。尚、もはや保証期間もへったくれもないのですが、致命的な故障の原因となる場合もあるので、ご自分の責任において作業をして下さい。また、Lyriconシリーズは何度か仕様変更をしていたらしく、いくつものバージョンが存在しています。必ずしもここで記述している方法が当てはまらないものもあるかもしれないので、ご了承ください。

調整の範囲を超えて修理が必要な場合、回路図とにらめっこしながら問題個所を探してゆくわけですが、全体的に部品が古くなってきているので、この際気前良く、ボードを新しく作り直すことを強くお勧めします。時間とコストを考えても最短ルートです。

一般的注意事項
感電や火災、ショートによる回路破壊にはくれぐれも注意をすること。回路破壊は直りますが、身体へのダメージはしゃれになりません。電気全般に関して知識の無い方、手先の器用さに自信の無いかたは、ここから先の作業は「読みもの」にとどめておくことをお勧めします。


申し訳ありませんが、このページもまだ工事中で情報が不完全です。徐々に改善しますので、今しばらくお待ちください。
目次
日常のメンテナンス
インストゥルメント・ボディのチェック
インストゥルメント・ボディの分解
コンソールの分解
リリコンI・コンソールのチェックと調整 工事中
ドライヴァ・コンソールのチェックと調整 工事中
リリコンII・コンソールのチェックと調整



1.日常のメンテナンス

キー・コンタクトのクリーニング

キーの接点は銀接点となっており、酸化皮膜が出来ると接触不良となるので、まめに払拭しておく。すぐに接点不良となりやすいので、頻繁に。接点が黒くなっている場合にはキーを本体からはずして、キー側と本体の両方の接点を綿棒の先につけた微量のコンパウンド入りポリッシュなどで磨く。


ボディのクリーニング

リリコンI のボディはニッケル・メッキではなくクローム・メッキのようだ。研磨系のポリッシュを使っても鏡面を取り戻すのは難しいので使わない方が良い。乾いたクロスで指紋を拭き取るようにする。

リリコン・ドライヴァ及びリリコンIIの仕上げ使われているサテン・フィニッシュは一度錆を発生させたりすると、綺麗にするのが難しい。研磨タイプのポリッシュでは、サテン仕上げに光沢が出てしまうからだ。使用後はまめに乾いたクロスで手の脂をふき取っておく。

キー・オイリングに関する注意
リリコンでは、あまりキーメカニズムに対するオイリングの必要は無いはずだ。キーには微弱な電流が流れる仕組みなので、あまり不必要なオイリングをしないほうが良いと思う。

コンソールの手入れ
スイッチ、ジャックの接点が酸化して、ガリが出たりしやすいが、接点復活剤などの過剰な使用はしないほうが良いだろう。高価な部品は使っていないので、悪くなったら全部取り替えてしまったほうが精神衛生上も良い。



2.インストゥルメント・ボディのチェック

ボディ側の7ピンDINコネクターは出っ張りの部分を6時の方向に置くと、5時の位置にある1ピンがEref、7時の位置にある2ピンが+15V、3時の位置にある3ピンがEwind、中心にある4ピンがEreed、9時の位置にある5ピンがCommon、1時の位置にある6ピンがEkey、11時の位置にある7ピンが-15Vとなっている。パネルを裏返して、電源を接続し、スイッチを入れて各信号が規定レベルにあるかどうかチェックを行う。テスターのリードなどでショートさせないよう、充分に注意して。

供給電圧のチェック
+15V -15V

リファレンス電圧 ( Eref )のチェック

ウインド信号 ( Ew )レンジのチェック
0.5〜10V

リード ( Er )信号レンジのチェック
0.3〜10V

キー (Ek )信号レンジのチェック

異常があればトリマによる調整を試みる。




3.インストゥルメント・ボディの分解(ドライヴァ、II)

ボディ内部は大変狭い上に、ボード間結線は最小限のハンダで、しかもケーブルにはあまり余長を設けていない。また、ボディのキー・メカニズムは強い力がかかると曲がってしまうので、分解の際にはキー部分を握らず、無理な力をかけないよう細心の注意をはらうこと。


手順
1テールピースの取り外し.
管体のケーブル寄りの部分を一方の手でつかみ、底部に付いているアルミのテールピースを少し左右に回しながら(どちらの方向にも半回転以上回さないこと)取り外す。 これまでに外したことが無ければそう簡単には外れないと思う。 動かないときは、ケーブルとキーに注意してテールピースにゴムチューブなどを巻きつけてジャムのフタを外す要領で力をかける。 ドライバーなどでこじると傷になるのでお勧めしない。 はずれた感触があったら、そのままOリングを切らないよう注意しながらテールピースを外し、中央の穴からビニール管を引き抜く。 ビニール管が古くなっている場合は交換する。(DIY店・観賞魚店などで同じ径のものが入手できる。)


(ここまでで、ボード下部の調整ポイント、P1とP2の2つのトリマーへのアクセスが可能になるので、本体のオクターブキャリブレーションのみであれば、これ以上の分解は必要ない。→オクターブ・キャリブレーション参照)


2. トランスデューサーの取り外し
管体のケーブル寄りの部分をつかみ、別の手で今度はマウスピース下のトランスデューサ部分をつかみ、静かに回す。(どちらの方向にも半回転以上回さないこと)初めての分解の場合、最初に密閉シールが取れる感触があるはずだ。ゆるみはじめたら、慎重に。内部の結線はごく微量のハンダで止められているだけなので切れやすい


(これで、P3とP4の調整ポイントが露出する。P3はEwind、P4はEreedのトリマーである。) ウインド、リードセンサーの微調整が必要な場合はこれらのトリマを使う。


※ボディ内部の基板にもいくつかのバリエーションがある。Lyricon Iとそれ以外のモデルでは根本的に設計が異なっているし、DriverやLyricon IIにおいても製造時期によって明確な差異がある。 Lyricon I では、ボディボードにはトリマーが無く、コンソール側で各種キャリブレーションを行うようになっている。 これは、ボディとコンソールが1:1であるという前提に基づいたもので、1台のコンソールに対して予備ということで複数のボディを持っていたりする場合にはボディを変えるたびに個体差をいちいち補正しなければならないので都合が悪い。 おそらくそのような背景で、Lyricon II やDriverではボディ側にトリマーを置いてコンソールに送る信号をボディ側でキャリブレートできるように改良したものと思われる。

※Lyricon I のテールピースはラバーのOリングで固定されているわけではなく、金属同士が直に接触しており、内側からCリング(穴用C型止め輪)で拡張して踏ん張っている。外すときにボディを傷付けることの無いように十分な注意が必要。Cリングは鉄製なので、長年真鍮製ボディと接触していたために電食が起きてサビている。無理に作業せず、CRC5-56などを使いながら気長に進めるほうが良い。


 


ボディ内部の修理

ボディの修理は、基板上の回路およびトランスデューサーの異常(不作動または調整範囲を逸脱した動作)があった場合に行わなければならない。リリコンが販売されていた当時は、トランスデューサーは修理不能でアセンブリ交換することとなっていたが、現在となっては新品アセンブリの入手はほぼ不可能であるので、自らの手でオーバーホール(再生)する必要がある。ボードも異常個所を特定して部品を交換をすることになる。なにぶん製造から時間が経過しているので、オリジナリティは損なわれるかもしれないが完全に新しい部品に交換(当然メーカー供給はありません)してしまうことが望ましい。



基板の引き抜き

キーは外さなくともキー基板を引き抜くことは可能だが、外から接点を押し込むときなどはキーが無いほうが作業しやすいので予めキーを外しておくことをお勧めする。(もとの位置を覚えておくこと)。

息抜きのビニールチューブをボディから引き出す。オクターブキーの2箇所を含めてボディの7箇所のネジをすべて外す。小型の先の細いプライヤーで、まず内部に見えるオクターブキー接点が取り付けられている真鍮板をはさみ、初めに基板方向(管の中心方向)に接点を押し込んで逃がし、それから管の外にそっと引き出す。管体の孔に接点が引っかかっている状態では、無理に引き出さないこと。
表側のキー接点も内側に押し込んでからトランスデューサー側にそっと引き出す。
これでボディから基板が離れた。



トランスデューサーの引き抜き

トランスデューサーを引き抜く必要があるのは、オーバーホールが必要な場合のみだ。(ウインド、リードの規定抵抗値が出なくなった場合、まったく動作しない場合のみ)ダイアフラムが硬化した、破れた、リードレバーが取れた、遮光ユニットが外れた、ブレスセンサーの反応が悪くなった、などの場合のみである。

トランスデューサーの下側(マウスピースの反対側)に見えるスクリューをネジまわしで1〜2回転ゆるめる。抜いてはいけない。(このネジは、気密ガスケットを管の内壁に押し付けるはたらきをしている。)次に、反対側のマウスピースを抜いて、先の鈍い、長い棒で、カンチレバーより奥のトランスデューサーの天井部(息の通る孔が見える部分)をゆっくりと押す。(これはかなり固い。手を滑らすとカンチレバーが手に刺さったりする危険がある....考えただけでちょっとさむいが...。)カンチレバーの付け根の円柱の外形よりも少し内径の大きい、外径25mm、内径20mm、長さ10cmくらいの塩ビ管などを探してきてそーっと力強く押す。一度も外したことが無い場合はかなり固い。トランスデューサーは、マウスピースの反対側に少しづつ出てくる。

トランスデューサーの構造(ネット上初公開!)

手前に見える黒い窓がダイアフラム(膜はゴムではなく、テント生地のような織り模様が見える)。周囲はシリコンゴムによってシールされている。マウスピースから吹き込まれた息は、トランスデューサー上部の穴からこの空間(ボディの内壁とトランスデューサーに囲まれたカマボコ型の空間)に入り、ダイアフラムを押すことにより、内部の光センサを遮光して圧力の強弱を検知します。排気はチューブを通って下部へ。ヤマハのWXシリーズなどでは、排気とセンサーへの取り込み経路は別々になっているが、リリコンでは兼用。リードレバーは、シリコンゴムのシールの中を貫通してセンサー部分に達し、先端には遮光ピースが取り付けられている。リードレバーのたわみによって、LEDの光がこの遮光ピースによって遮られ、受光センサー(フォトセル)がその量を計測し電気信号を出力する。
反対面の基板部分。内部には2組のLEDとフォト・トランジスタが封入されている。シリコンゴムにより防水処置が施されている。左側のリードレバーのサポートチューブにマジックで何やら数字が書いてあるのが見えるだろうか。トランスデューサーは工作精度の問題で、アウトプット電圧の個体差が大きい。したがって、工場ではユニットの完成後にひとつずつ計測を行い、スペックをマジックで記入したようだ。ボディ基板との間に、この補正を行うために抵抗を入れてある。経年変化でこのスペックは変わってしまうので、話はややこしくなる。リリコンが長生きしない理由のひとつ。
横から見たところ。中央に見える小さな穴は、六角のスクリューが入っており、ウインド・センサーのスレッショルドに物理的にプリロードをかける調整ネジだ。ミニ6角レンチで時計回りにまわすと、ウインドに対しての応答性が強くなる。尚、調整後はネジ部分にシリコンゴムを塗りこんで防水処置をする必要がある。つまり、シリコンを塗ったり剥がしたりしながら、トライ・アンド・エラーを繰り返すことになる。(何故、ブレスセンサーのチェンバーを密室にしなかったのだろうか?)

まず外観を目視して、メンブレーンに亀裂がないか、シール状態に大きな以上が無いかを確認する。
この段階で本体をコンソールに接続、音が出る状態・ベンドがかかるセッティングにして、ダイヤフラムを押すとボリュームが大きくなり、リードレバーを少し押すとベンドがかかるようであれば、センサーは問題ない。これ以上の分解をしないほうが良い。
リードレバー、ブレスセンサーのどちらかが反応しない場合は、トランスデューサー・アッセンブリを開けてオーバーホールしなければならない。基板側のシリコンゴムのシーラントの中に埋没している4つのネジを外し、周囲のシリコンゴムを取り除いて、基板を裏返す。中には、センサーのエミッター、レシーバーと遮光メカニズムが入っている。反応しないセンサーのハンダを調べ、亀裂などなくても動作していない場合は部品を交換する必要がある。もちろん、工場は無いので部品は出ない。無いものはあくまでも自分で作る!

 

トランスデューサーの分解

 

さていよいよ最大の弱点であり心臓部ともいえるトランスデューサー内部の構造を詳らかにし、問題点を探っていこう。

トランスデューサーの取り出しについては別項に述べた。ブレスチューブは大抵劣化してベタついていたり、硬化していたり、変色していたりするので抜去してあとで新品に交換。

ダイアフラムは外から直接触って状態がどうであるか確かめることが出来る。多くの場合経年変化や息に含まれる化学物質により変質し、表面が白っぽく変色し、カリカリとした乾燥した触感になっており、押すとペコペコとした反応が返ってくる。これまでに数台の個体を分解したが、製造後30年を経てほぼ同様の状態になっていた。(場合によっては破れているものもあるらしい)。このペコペコ(0/1)が古い機械によくある、弱い息に反応せず強く吹き込むとドンと音が出る症状の原因だ。当然だが本来のダイアフラムは弾力をもって微妙な空気圧の変化を内部にリニアに伝える必要がある。 これこそがLyriconの命である繊細なブレス反応のキーである。ダイアフラムの中心部には、内側から小さな突起が押し返している感触があるが、これは後述するセンサー部品の一部である。

トランスデューサーの分解に入るには、気密と防湿を目的として盛り付けられた透明シリコンゴムのコーティングを剥がす必要がある。但し基板のプリント面は傷を付けないように。圧力感知の役割をするダイアフラムは真鍮板の枠によって基板側からの4本のスクリューで固定されている。この4本のスクリューをはずす。これで真鍮板の枠がトランスデューサーの本体から分離できる。基板側も剥がしてみたくなるが、少し注意が必要だ。

基板の配線がトランスデューサー本体の中心を通っているので無理に引き抜かない。またサンドイッチされている2つの金具(後述する遮光ピース)は抜き取れるが、内部に引っかかって変形しやすいので細心の注意が必要だ。特に上から来ているリードレバーの根元が片側の金具を貫通しているのでそれを確認しつつ。ダイアフラムは本体に接着されているのでこの時点では取れない。

これが問題のセンサー部分だ。基板の上にはウインド用とリードレバー用の2組のLEDとフォト・トランジスタが対向して設置されており、それぞれの光漏れによる干渉を防ぐために仕切り板が設けられている。

 

リードレバー側の遮光メカニズム中上の孔を貫通する

そして基板と本体の間に挟まっているのが、2枚の銅板で出来た遮光ピースである。リードレバーを上にした状態で基板側から向かって右側に、リードレバーの根元の動きによってLEDとフォト・トランジスタの間の遮光ピースを動かす部品が挟み込まれている。 リードレバーの末端が銅板プレートの穴を貫通し、リードレバーの僅かな動きによって遮光板がLEDとフォト・トランジスタ間の光の量をコントロールする。(リードレバーの動作方向−リードに対して垂直方向−は遮光版の動きと重要な関係があるので、組み立ての際にはこの位置関係をよく覚えておく必要がある。本体のブレス通過孔の位置との関係で覚えておけばよい。)

ダイアフラム接触面。エポキシ系接着剤で接着された小さなパイプがメンブレーンに線接触することになる。 

(スリット付近にプリロードネジの接触痕が見える)

裏側(L字型の遮光板も接着剤による接着である)

左側に挟み込まれている銅板は息の圧力を受け止めるダイアフラムと背中合わせで接しながら同じようにもう一対のLEDとフォト・トランジスタを遮光する部品である。 このブレスセンサーの役割は2つあって、音量に対するコントロール電圧情報を生成することと、動き始めのスレッショルドをピックアップすることである。 実はこのスレッショルドを調整するのが例の小さな六角スクリューである。この小さな六角スクリューによって、息のプレートをちょっとだけつつく圧力を変化させて、微妙な調整を可能にしている。

 

非常に複雑なカラクリであり、また2枚の遮光ピースのバネ弾性や工作上の個体差が出る事は容易に想像できる。また、写真でもお分かりいただけるかもしれないが、センサー内部にはLED光の乱反射を防ぐためマットブラックの塗装が施されているが、これが剥離して小さな塗装片が散らばっている。センサー面に付着すれば当然出力に影響する(した)はずだ。やれやれ。

 

商品化前のLyricon の特許申請書類にを見ると、ブレスセンサーはマウスピース内部に取り付けられたダイアフラムと光学センサー、リードセンサーはリードに接着された磁石とマウスピースのバッフル部分に設置された磁気センサーという組み合わせとなっており、マウスピースの中にどちらも格納されている。何故製品化の際に両方とも光学センサーとしたのだろうか? その経緯は知る由も無いがメンテナンス上の利点が考慮された改良かもしれない。

 

 

 

ダイアフラムの交換

 

ダイアフラムを本体から剥がしてみる。この部分は完全に気密状態になっていないと、高い湿度の空気が基板側に回ったりしてやっかいなことになる為、しっかりと接着剤を使って本体に接着されている。

 

Bill Bernardiはダイアフラムの素材を選ぶにあたりあらゆる素材を試し、その結果理想的な素材にたどり着いたと述べており、「ラバー(ゴム)ではない。ある種のファイバー(繊維)だ。」と言っているが、何であるかについて明言はしていない。この素材が解らないことが、アマチュアが修理を試みる際の心理的阻害要因となっているようだ。この素材を仔細に観察すると、表面には繊維の織り目のような模様がわずかに見え、断裂面には細い繊維が見え、表面になにかがコーティングされている様子がわかる。また、伸度や引張り強度については元来の特性がもはや解らないが、ゴムシートよりも強く硬い印象を受ける。あまり伸びも無い。 これも新品状態はわからないが、厚さは0.3mm以下ではないかと思う。幌とか、テント生地、雨合羽、バッグなどに使われているゴムやPVCでコーティングされたナイロンやポリエステルの生地のような素材のような印象を受ける。ネットで類似したものを検索すると自動車キャブレターのダイアフラム用素材として0.15〜0.2mm厚のNBR(ニトリル)ゴムによってコーティングされたナイロン生地というのもの (商標としてはフェアプレン-Fairpreneというのが比較的有名だが) があり、これがかなり怪しいと睨んでいる。しかしながら、このような素材を個人が(ごく少量)入手するのはなかなか難しい。産業用10メートル!単位とかならば可能かもしれないが…。キャブレターのダイアフラム部品を買って切り抜くのもひとつの手段かもしれないが、実験のためには高くつきそうだ。

 

 リリコンのダイアフラム素材が何であるかを断定するには個人的には知識も方法をも持ち得ていないが、われわれのリペアは製品化を前提としていないので、耐久性とか(元々の製品の耐久性には大いなる疑問があるが…)コストとかを心配する必要は無い。入手可能な代替素材で目標を達成できれば良い。つまり、ブレス圧力をリニアにセンサーに伝えることができ、完全防水で機密性が高く光を乱反射せず毒性が低い素材を選べばよろしいのではないか。しかも30年経った今のほうがマトモな素材が入手し易いかもしれない。素材の候補として、0.5mm厚位の天然ゴムシートを調べてみたが、0.5mmでは少し厚すぎて、トランスデューサーに取り付けると、チェンバーへの収まりが悪くなる。さらに天然ゴムは素材としては強く引っ張ってみたりすると完全に復元せず、少し伸びて変形してしまったり、裂けてしまったりすることが多く、あまり適していないようだ。 

他の素材で少し気になったのは、写真の暗室用品として売られている遮光幕だ。これは布に片面だけゴムがコーティングされている。他にもカメラ修理用のシャッター幕素材として同様のものがある。試していないので使えるかどうかは解らない。

 

何か良いものは無いかとあちこち探し回っているうちに、たまたま0.2mm厚のクロロプレンゴムで片面に布目の模様を付けているシートを入手した。サイズが50センチ四方で819円と安い。強く引っ張ってみたりしたが、かなり強度があり容易には裂けない。また形態安定性も良好。CPゴムは化学的にも比較的安定しているらしい。上手く使えれば十分すぎる量だ。ちょっと柔軟性がありすぎるのが気になるが、ダメだったら他の素材を当たれば良いのだ。

 

YAMAHAのシンセサイザー用のギミックであったブレスコントローラBC-1とかWXシリーズなどのダイアフラムを見てみると、スピーカーのエッジのような形に成型された透明なビニルのような素材を使っている。明らかに、経年変化による劣化を防ぐための改善で、技術の進歩によるものだ。Lyriconのダイアフラムと同等の物理特性をもつ素材で、ずっと経年劣化に対して安定なものが見つかれば、素晴らしいと思う。いろいろな素材でチャレンジしてみたい。

 

 

修理に必要となるもの:

 

材料:

クロロプレンゴムシート0.2-0.3mm厚

ゴム・プラスチック用接着剤

つや消し黒 塗料

シリコン・コーク(透明タイプ)

定電圧電源 ±5V

リードレバー調整用のために バイス、尺立ホルダー(トースカンと定規)

電圧テスター

 

ゴムシートを加工する。加工は、もとのダイアフラムに合わせてカットし、スクリューが貫通する部分4箇所にきれいな穴を開け、ボンドで元のダイアフラムの場所に接着する。

銅板細工の遮光プレートは、マットブラック塗装が剥がれてきているので、溶剤で残った塗装を落とした上で再塗装する。一応乾燥しても多少弾力性のある塗料を使っておく。また、リードレバーが触れる部分や、ダイアフラムと接する部分には塗装しないでおく。

 

交換の済んだダイアフラム(縁部分はあとでシリコンコートが必要。膜部分にはシリコンコートがかからないように。)

このバスコークNは作業性も良い

 

 

部品を元通りに組み立て、間違えないように基板へ電源供給をする。(続く)(追記)※0.3mmのクロロプレンゴムシートでも試したが0.3mmのほうが結果は良好。

 

Lyricon I では他のモデルと較べると内部のセンサーに大きな違いは無いが、トランスデューサ部分のフレームはプラスティックではなくアルミダイキャストで出来ている。また長さも他のモデルよりも長い。 

 

 



4.コンソールの分解


A)電源ケーブルをコンソールからはずす
B)シュラウドとパネルをケースに固定している12本のネジのうち、コンソールの左右の上端の2本を残して10本を外す。(赤丸の2本は、パネルをシュラウドに固定しているネジで外す必要は無い。)


C)これでシュラウドとパネルはケースから外れるので、パネルを裏返して基板部分を見ることが出来る。


リリコンII にはいろいろなバージョンが存在する。ここでは、シリーズC(ボトムボードの番号はGEC-1706-B およびGEC 1707-B )のボードを基準に調整法を述べる。

注意: バージョンによる違いの例
上と下の写真は、Lyricon IIの異なった個体のボトムボード1(主にVCO回り)を比較している。バージョンの違いにより基板のプリントパターンやパーツ配置が大きく異なることが解る。上のボードにはComputone Inc. Bottom Board GEC-1706-A、下のボードにはComputone Inc. Bottom Board GEC-1706-B の表記がある。上のボードではなにやら収まりきれなかった回路を別に小さな基板に載せて積み重ねてある。まるでプロトタイプのようだ!尚、ここに示したもの以外に、シリーズDというバージョンも存在している。



同様に、各個体のボトムボード2(フィルター)を比較したところ。こちらも僅かではあるが異なる。上のボードにはCOMPUTONE INC. BOTTOM BD 2 GEC-1707-A 下のボードにはCOMPUTONE INC. BOTTOM BD.2 GEC-1707-B
の表記がある。


7.リリコンII コンソールのチェックと調整

この作業では、デジタル・テスターと4オクターブをカバーする楽器用チューナーが必要となる。リリコンの操作パネルを図のようなセッティングにしてから(図2)、パネルを反転して基板が見えるようにする。楽器チューナーにリリコンのHIまたはLOアウトプットを接続する。

コールド・セットアップ

この作業は、ユニットの電源を切った後少なくとも20分以上放置してから行うべきである。(図10を参照)
A)IC#4からフォーム・カバーを外して保管しておく。
B)T4(BB1:ボトム・ボード1)を反時計回りにいっぱいにまわす。
C)電源を入れる。デジタル・テスターのハイ・リードを使ってダイオードD4のアノード側の電圧を測る。
D)デジタル・テスターのハイ・リードをIC#2の2ピンに接触させ、ステップCのダイオード電圧を25mV下回るようT4(BB1)を時計回りに回す。(例)ダイオード電圧が+0.583であれば、ステップDでは+0.558(±5mV)となるように。
E) IC#4のフォーム・カバーを元に戻す。


VCO1のチューニング

作業を続ける前に、パネルとシュラウドを一旦ケース上に戻してリリコン管体を接続し、電源をいれて15〜30分稼動させる。
A)VCO1の粗調整、微調整のダイヤルをともに中心にセットする。

B)VCO1のレンジ・スイッチをlowの位置にセット。

C)チューナーをミドルC(第2オクターブ)にセットする。図3の運指を使って管体でCを吹き、T3(BB1)を調整して、チューナーに合わせる。

D)2つのオクターブキーを押さえて(図3b)チューナーのオクターブを2つ上げ(第4オクターブ)T1(BB1)を調整して、チューナーに合わせる)

E) チューナーを3オクターブ下げて(第1オクターブ)、Low Cを吹き(図3c)、T12を調整して、チューナーに合わせる。

F) C、D、Eのステップを繰り返してそれぞれがぴったり合うように調整する。

G)フロント・パネルのVCO1レンジ・スイッチをmidの位置にセットし、チューナーを第3オクターブにし、ミッドCを管体で吹く(図3a)。T6(BB1)を調整してチューナーに合わせる。

H)同じ音で、VCO1のレンジスイッチをhighの位置に動かし、チューナーをい1オクターブ上げ(第4オクターブ)、T5(BB1)を調整して、チューナーに合わせる。

GとHをどちらも合うまで繰り返して行う。
VCO2のチューニング

VCO1で行ったことと同じことをVCO2において行う。但し、トリマーは下記のように読み替える。

T3          →              T10

T1          →              T8

T12        →              T7

T6          →              T9

T5          →              T11


音程(イントネーション)調整

それぞれのチューニングつまみに近接している、ミニドライバーによる調整窓はそれぞれのオシレーターのイントネーションを調整するためのものです。パネル上の全てのコントロールつまみを基本セットアップの位置に戻します

外部のチューナーのCの音を使って管体の一番低いCの音(図3c)をVCO1のチューニングツマミで合わせます。

次に一番高いCの音を演奏し(図3b)、チューニングツマミとなりの調整窓から、ミニドライバーで合わせます。

VCO1が理想的な音程でチューニングが完了したら、外部チューナーを切り離します。ミキサーでVCO1とVCO2のブレンドを均等にして、上記ステップをVCO1の音を聞きながら、VCO2で行います。



フィルター調整

デジタル・テスターのハイ・リードをコネクターのF(ピン3)に接続(図10)し、T1(BB1:ボトムボード1上)を0ボルト(±5mV)となるように調整します。

コネクターのG(ピン5)に接続してT2(BB1)を0ボルト(±5mV)となるように調整します。

コンソールを基本セットアップにします。フリケンシーコントロールを8時の位置に、ラウドネスを9時の位置に、スレッシホールドを発音する境界にセットします。

T6(BB2:ボトムボード2上)を時計回りいっぱいに回します。静かに息を吹き込み、T6(BB2)をスレッシホールドが雑にならないように徐々に音が出るように調整します。



ウインドアタックとゲイン

基本セットアップにします。

VCO1のスレッシホールドを発音の境界にします。

T5(BB2)を時計回り一杯に回します。

楽器に息を吹き込み、舌の端で鋭いスタッカートの音を出します。

T5(BB2)を「コツンコツン」という音がちょうど消えるところになるよう調整します。いろいろな強さで息を吹き込み、快適なウインド・コントロールとボリュームが得られるようにT7(BB2)を調整します。



直線上に配置